マディソン・スクエア・ガーデン(MSG)といえば、ニューヨークを代表する大型エンターテインメント会場だ。ニックスのバスケ、レンジャーズのアイスホッケー、コンサート——毎晩何万人もの人が集まる。
ジム・ドーランが経営するMSGは数年前から顔認証技術を導入している。入場者の顔を自動スキャンし、締め出したい人物を識別するためのシステムだ。これに対し、プライバシーの観点から反発する市民や活動家が声を上げてきた。
そしてMSGは、その活動家たちを記録していた。
ハッキングで流出した45GBのデータ
2026年6月、ハッカーがMSGから45GBのデータを盗み出し、公開した。404 Mediaがそのデータを入手・精査したところ、「Facial Recognition Activists.docx」という名前のファイルが存在していた。
ファイルには、MSGの顔認証プログラムを公開の場で批判した活動家たちの情報がまとめられていた。内容は彼らのコメントや、顔認証に反対する投稿したSNSのツイートだ。このドキュメントは、社内の複数の関係者がアクセスできる状態に置かれていた。
「批判した人間を把握する」という構造
今回のケースが示すのは、顔認証の「監視」が来場者の身体情報の収集にとどまらないことだ。
MSGは顔認証に異議を唱えた市民たちを、別の方法で監視していた。どんな言葉を使ったか、どこで発言したか——そうした「声を上げた記録」がドシエとしてまとめられ、施設内で共有されていた。
電子フロンティア財団(EFF)のプライバシー訴訟ディレクター、アダム・シュワルツ弁護士もそのリストに名前が入っていた一人だ。彼はこう述べた。
「データ侵害が起きた今こそ、マディソン・スクエア・ガーデンが来場者を生体認証監視にさらすのをやめる良い機会だ」
「批判を封じる」ための顔認証
MSGは以前から、顔認証を使って気に入らない人物を会場から締め出すことで批判を浴びていた。特に問題になったのは、MSGと訴訟中の法律事務所に所属する弁護士たちを入場拒否していた件だ。顔認証が「敵対的な訪問者」を排除するためのツールとして機能していた。
今回のドシエの発覚は、その延長線上にある。会場に来る人を識別するだけでなく、外から批判した人間も記録・把握する体制があったことになる。
監視技術への批判が、その批判者への監視につながる——この構造は、公共空間における顔認証の問題を議論するうえで、最も注意すべき側面のひとつだ。
「流出しなければわからなかった」
今回の実態が明らかになったのは、ハッキングという外部からの介入があったからだ。MSGは今のところ声明を出していない。
ドシエの存在は内部文書であり、通常の手続きでは市民が知る術がない。それが45GBというデータ流出によって偶然明らかになった。
「顔認証に反対する活動家のリスト」というファイルが社内に存在していたという事実は、こうした技術を大規模に運用している組織が、一体誰のために何のために情報を蓄積しているのかを問い直させる。
来場者のデータ、批判者のデータ、そして「誰が敵で誰が味方か」の記録——それらが一か所に集まったとき、その会場に行くことの意味は変わってくる。