米自動車大手のFordが、AI導入による人員削減を進めた結果、深刻な品質低下を招いていたことがわかった。最終的に同社は、辞めさせたベテランエンジニアを含む350人を急きょ呼び戻す対応に追われている。
「AIを入れれば回る」という思い込み
Fordは2020年以降、5000人以上の従業員を削減してきた。その一方で、設計要件の調整やテスト工程にAIを導入すれば、少ない人数でも高品質な車を作れるはずだと踏んでいた。
ところが現実はそうならなかった。車両ハードウェアエンジニアリング担当のチャールズ・プーン副社長は、こう振り返っている。「AIを導入して設計要件を調整すれば、高品質な製品ができると誤って思い込んでいた」。ベテランが持っていた暗黙知——図面に書かれない勘所や過去のトラブル事例——は、AIの学習データには含まれていなかったのだ。
リコール件数でワースト1位に
結果は数字にはっきり出た。Fordはその年、米国の自動車メーカーで最も多くのリコールを出し、JDパワーの信頼性ランキングでも順位を落とした。ベテランエンジニアが退職する前に知識を十分に引き継げなかったことで、AIが拾いきれない不具合が量産ラインをすり抜けていた。
350人の再雇用に加え、AIテストの項目も10万件以上追加された。つまり「人を減らしてAIに置き換える」つもりが、「人もAIも両方増やす」という、当初の目論見とは正反対のコスト構造になっている。
CEOは「AIがホワイトカラーの半分を置き換える」と言っていた
皮肉なのは、Fordのジム・ファーリーCEOが以前、「AIはアメリカのホワイトカラー労働者の半分を置き換えるだろう」と発言していたことだ。自社がその「置き換え」を試みて真っ先につまずいた格好になる。
もちろん、AIによる効率化が一切無意味だという話ではない。ただFordの事例は、「まず人を切って、それからAIに任せる」という順番が危険であることを示している。経験豊富な人間がいてこそAIは機能するのであって、人間の代わりにAIを据えるのとは話が違う。自動車のように安全が直結する領域では、そのズレが命取りになりかねない。