参考文献:
フォードが今週、JDパワーの初期品質調査(IQS)で量産車ブランドの中で1位を獲得した。これは16年ぶりの快挙だ。
しかし、その喜びの裏でフォードが語ったのは、失敗の話だった。
AIに任せたら、品質が落ちた
フォードの車両ハードウェアエンジニアリング担当副社長チャールズ・プーン氏は、今週の記者ブリーフィングでこう認めた。
「私たちは誤解していた。人工知能を導入し、設計要件を調整すれば、高品質な製品ができると思っていた」
その結論は間違いだった。
同社は生産・設計プロセスにAI自動化システムを積極的に導入した。しかし、そのシステムが期待通りに機能しなかった。品質が低下し、ラインで問題が続発した。その原因を掘り下げていくと、ある事実に行き着いた——ベテランエンジニアが持つ「暗黙知」が、AIシステムに移転されていなかった。
AIの効果は、学習させるデータの質に完全に依存する。フォードでは、複数の車両開発サイクルを経験してきたベテランエンジニアたちが、そのノウハウがシステムに十分に組み込まれる前に会社を去っていた。
人を手放し、呼び戻す
その結果、フォードは退職・解雇したエンジニアの一部を呼び戻すことになった。目的は二つだ。
- AIシステムを再訓練させること
- 現場で苦戦している若いエンジニアたちのメンターになること
プーン副社長は「AIシステムを再訓練するため、あるいは若い技術者を指導するために、経験豊富な人材を呼び戻す必要があった」と述べた。
これは、多くの企業が「効率化」の名の下に繰り返してきた失敗の典型的な構造だ。熟練者が積み上げた技術と勘は、数字やデータに完全には変換できない。それを無視してシステム化を急いだ結果、問題が出てから慌てて人間を必要とする。
「データがなければ、AIは機能しない」
フォードの件が示す教訓は、製造業に限らない。
「AIは訓練データの質に全依存する」——これは当たり前のことに聞こえるが、実際の導入現場では軽視されがちだ。現場のベテランが持つ感覚、判断の文脈、例外的なケースへの対処——そういった知識は、退職前に十分な時間をかけて収集・整理しなければシステムには入らない。
フォードが今回語った失敗は、「AIを入れた」という事実だけが先行し、それを支える人的基盤の整備が後回しにされた結果だ。
JDパワー1位という成果は素直に評価に値する。だが、その道のりには、AI投資の前提として「人の知識をどう守るか」という問いを軽視した代償が含まれていた。
「AIを入れれば人はいらなくなる」という発想が今も多くの組織に根強く残っている中で、フォードの事例はその逆を示している。技術は人の知識を代替するのではなく、その知識を前提にしてようやく機能する。