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インド工場労働者のカラダが、ロボットを育てる——AIの「身体データ」として搾取される縫製工場の女性たち

2026.06.26 配信
インド工場労働者のカラダが、ロボットを育てる——AIの「身体データ」として搾取される縫製工場の女性たち

デリー郊外の縫製工場で働くラリタ(32歳、仮名)は、工場の監督者から額に装着するタイプの小型カメラを渡された日のことを、こう語る。「壁にCCTVカメラを取り付けるみたいに、私たちの頭にカメラを付けたの。最初はおかしくて、みんなで笑ってた」。

誰も理由を説明しなかった。シャツとズボンを縫い続けながら、カメラは全てを記録していた。両手のリズム、生地を運ぶ速度、縫い目を修正する指の動き、同僚との会話まで。

そしてラリタたちは、自分たちの日常が「ヒューマノイドロボットを訓練するための貴重なデータ」として売買されていることを、ずっと後になって知ることになった。

ロボットが欲しいのは「人間の動き」そのものだ

ChatGPTのような大規模言語モデルは、インターネット上の膨大なテキストを学習して作られた。では、人間と同じように体を動かして作業するロボットを作るには、何が必要か。

答えは「一人称視点の映像」だ。これを業界ではエゴセントリックデータ(egocentric data)と呼ぶ。工場のライン作業、倉庫での仕分け、建設現場の職人仕事——そういった身体労働の映像が、ロボット訓練に欠かせない。

問題は、必要な量が桁外れであることだ。専門家たちは「数億から数十億時間分の人間の動作映像」が必要になる可能性があると言う。インドはその最有力な供給地として浮上している。

「南アジアは今も世界の工場だ。ロボットに人間の動きを教えたいなら、インドほど規模・多様性・労働密度が揃う場所はない」とデータ収集企業Labellerr AIの創業者プニート・ジンダル氏は語る。

インドには既に、こうした映像を集めて売る企業エコシステムが出来上がっている。EgoLab、Humyn AI、FPV Labs、Scale AI、Objectwaysなど十数社が参入し、テスラやその他のロボット企業にパイプラインを提供している。テスラのCEOイーロン・マスクは「テスラの将来価値の約80%はヒューマノイドロボットから生まれる」と発言しており、そのデータ調達に熱心だ。

補償はゼロ。同意も形ばかり

Guardianの調査では、5つの州にある6つの工場で、カメラを装着した労働者が一切の金銭的補償を受けていないことが確認された。企業側の言い分は「工場側には対価を払っている。個々の労働者への支払いは不要だ」というものだ。

「ソフトドリンクをもらったことはある」とラリタは言う。「それが映像を撮るからなのか、デリーの暑さに耐えたご褒美なのか、よくわからない」。彼女の月給は約200ドル(約3万円)だ。

コスト面での動機は露骨だ。米国で1時間30ドル相当のデータ収集が、インドでは5ドル以下で調達できる。「企業は工場と直接契約を結ぶことで、個々の労働者への補償なしに大量の映像を集められる」とある企業創業者は匿名で語った。

同意についても問題がある。調査対象の7つのテクノロジー企業のうち、労働者本人から直接同意を得たと答えた企業は1社もなかった。全て「工場の管理者を通じて許可を得た」と答えた。

「雇用が不安定な職場環境では、同意の意味が根本的に変わる」とベンガルール拠点のNGO「Work Fair and Free Foundation」の研究者ギータ・タトラ氏は言う。「カメラをつけるのを断れば、仕事を失うかもしれないと思いながら、本当に自由に断れるのか」。

身体から切り離されていくもの

この問題がはらむ倫理的な難しさは、単なる賃金不払いにとどまらない。

ラリタが30年以上かけて培った縫製の技術——生地の扱い方、縫い目を整える手の感覚——は、今やデータセットとしてクラウド上に存在し、世界中の企業にライセンスされる可能性がある。

「データは労働者の身体と行為から生まれるが、いったん抽出されればその人と切り離される」とベンガルールのAapti Instituteの創業者サラユ・ナタラジャン氏は言う。「労働者は時間に対して賃金をもらうが、そのデータが将来生み出す価値に対しては何も受け取れない」。

工場の床を離れ、映像は清書・アノテーション処理されてデータに変換される。それがどこへ行くのか、ラリタは知らない。

「今やっている仕事分の賃金すら、まともにもらえていない」とラリタは笑いながら言う。「ロボットに置き換えられた後、誰が私たちに払ってくれるんだろう?」

インドが世界のAIインフラの底辺を支えながら、その恩恵からは最も遠い場所に立たされている。この構図が変わる気配は、今のところない。

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