ニューヨーク・ブルックリンの中学校に通う息子が、理科の実験の宿題でGoogle Geminiにフィードバックをもらうよりうよう求められた。母親のケリー・クランシーさんはすぐに担任に連絡を入れた。
「あのボットは、機械に考えさせていいという感覚を子どもに植え付けるだけです。代わりに、クラスメートと話し合って実験を改善させてはどうですか、と伝えました」
クランシーさんはその後、ニューヨーク市公立学校でのAI使用に2年間のモラトリアムを求める保護者団体「Parents for AI Caution in Educational Spaces」を立ち上げた。
全米で広がる抵抗
これは孤立した声ではない。
オレゴン州ベンドでは今年2月、保護者1100人以上が地元学区にAI生成ツールを児童・生徒のデバイスから取り除くよう求める請願書に署名した。4月には、子ども支援の全国団体「Fairplay」が幼稚園から高校までの「生徒向けAI製品」に5年間のモラトリアムを求める声明を出した。
ニューヨーク市議会でも今月、過半数の議員が市長と教育長に宛てた公開書簡で、AIの教育利用に2年間の一時停止を求めた。同市は以前、AI特化型高校の設立計画を発表していたが、市民の反発を受けて撤回している。
テック企業と政府が押す側にいる
一方で、AIを学校に普及させようとする力も強い。
マイクロソフト、OpenAI、Anthropicは、全米第2位の教職員組合「アメリカ教員連盟(AFT)」にAI研修のための多額の資金を提供している。メラニア・トランプ大統領夫人は今年3月、ホワイトハウスで教育テクノロジーに関するサミットを開催し、「Plato」という名の「ヒューマノイド型教育者」を持ち出しながらAI教育を推進した。
NPRとIpsosの調査では、K-12の教師の40%が「生徒が授業でAIを週に1回以上使っている」と回答している。AIを使った教育プラットフォーム「MagicSchool」は、アトランタ、デンバー、ニューヨーク、シアトルといった主要都市の学区と契約を結んでいる。
「道具の誤用」という問題
保護者たちの懸念の核心は何か。専門家の言葉が端的に示している。
神経科学者のジャレッド・クーニー・ホルバス氏は言う。「専門家が生産性を上げるための道具は、初心者がその専門家になるための道具にはなれない。同じ道具を使っても、何も学ばない」。
学術誌「Societies」が2025年に発表した研究では、17〜25歳の若者が「AIツールへの依存度が高く、批判的思考スコアは高齢の参加者より低い」という傾向が確認された。スタンフォード大学は今年3月、「AIがK-12教育に与える影響についてのエビデンスはほとんどなく、AIが学習そのものを助けているのか、単に課題を代行しているだけなのかは不明だ」と報告している。
これを「認知的アウトソーシング(cognitive off-loading)」と呼ぶ研究者もいる——外部の道具に思考を委ねることで、精神的な努力を避ける現象だ。
AIがキャラクターになったとき
ベンドの保護者たちが特に反発したのは、MagicSchoolのAIチャットボット「Raina」という存在だった。小学3年生がキャラクター型のAIと会話するように学習するシステムに、「成長期の脳に不健全な関係を形成させるリスクがある」という声が上がった。
保護者の声を受けてMagicSchoolはRainaのキャラクター設定を削除し、「擬人化要素のない中立的なAIアシスタント」に変更した。声明では「保護者が訴えたキャラクターチャットボットへの懸念は正当だ」と認めた。
ただし、ツール自体は学校に残っている。
子どもの学習に何が起きているか
「edtech企業が子どもの学習内容を決めていて、教師はテクノロジーのサポート担当にされている」——クランシーさんはそう表現する。
AIを擁護する側は「学習障害を持つ子どもの支援に有効だ」と主張する。文字を読むのが難しいディスレクシアの子どもがテキスト読み上げを使う、などの例が挙げられる。ただし批判側は「そうした支援機能はAI以前から存在し、生成AIである必要はない」と指摘する。
子どもの脳は、難しいことに取り組む経験の中で育つ。間違えることも、考え込むことも、発達に必要なプロセスだ。それを手軽に「解決」してくれるツールが学校に入ってきたとき、何が残るのか——その問いに答えるデータは、まだない。