参考文献:
世界中の子どもたちに愛されるアニメ「ペッパピッグ」の制作元であるHasbro社が、子役の声優たちに対し、ある契約条項への署名を求めている。AIに声の権利を譲渡する、という条項だ。
この条項に署名すれば、Hasbro社は子どもの声をクローンし、AI生成の音声をペッパピッグの商用コンテンツに使用できるようになる。しかも、その権利には明確な期限が設けられていない。
「受け入れるか、仕事を失うか」
この契約は事実上、「take it or leave it」の最後通牒として提示されている。署名を拒否すれば、子どもは役を失う。親や保護者にとっては、子どものキャリアを人質に取られたようなものだ。
2019年にペッパピッグのブランドを買収した米エンタメ大手Hasbro社は、2026年3月に新たなショーランナーとしてアダム・レッドファーンを迎え入れている。フランチャイズの新展開とともに、AI条項が契約に盛り込まれた形だ。
約1000人が公開書簡で抗議
この動きに対し、英国の若手パフォーマー専門エージェント協会(AYPA)が主導する公開書簡に、俳優、タレントエージェント、保護者など約1000人が署名した。
書簡はこう述べている。
「パフォーマーが子どもである場合、同意は最大限の慎重さをもって扱われなければならない」「子どもが、その結果を理解できる年齢に達する前に、AIモデルによって将来の職業的アイデンティティを形作られるべきではない」
核心をついた指摘だ。6歳や7歳の子どもに、自分の声がAIによって永久にコピーされることの意味を理解する能力はない。それは「同意」とは呼べない。
Hasbroの回答は空虚だった
Hasbro社はDeadlineの取材に対し、「子どもの保護はHasbroの根幹にある価値だ」「この問題に対して責任ある透明な姿勢で取り組む」と回答した。ただし、具体的な契約条件についてのコメントは拒否している。
「子どもを守る」と言いながら、その子どもの声を無期限にクローンする権利を求める。言葉と行動の矛盾が、これほど明快なケースも珍しい。
声は「データ」ではない
AI時代において、声はもはや単なる肉体の一部ではなく、複製可能なデジタル資産として扱われ始めている。大人の俳優であれば、契約条件を精査し、弁護士を雇い、交渉する選択肢がある。だが子どもにはそれができない。
今回の問題は、ペッパピッグという一つのアニメの話にとどまらない。子どもの声、顔、動きといった生体データを、本人が理解できないうちにAI学習素材として収穫する仕組みが、エンターテインメント産業に組み込まれようとしている。
公開書簡の一文が、この問題の本質を的確に表している。「子どもの将来の職業的アイデンティティが、本人がその意味を理解する前に、AIによって決定されてはならない」。
これはペッパピッグの問題ではない。すべての子どもの問題だ。