アメリカでは約90%の家庭にエアコンがある。ヨーロッパ全体だと約20%。そしてイギリスは約5%、ドイツに至っては約3%だ。
その数字が、今夏のヨーロッパに何を意味するかを考えてほしい。
記録的な熱波が大陸を覆うなか、ヨーロッパの電力網は三つの力に同時に引き裂かれている。
「三重の圧迫」とは何か
ブリュッセルのシンクタンクBruegelの上級研究員シモーネ・タリアピエトラ氏は、この状況をこう表現した——「冷房需要が急増する一方で、発電所の効率が下がり、その発電所を冷やすための水まで熱くなっているか、そもそも足りない」。
これが同時に起きている。
- まず、人々が一斉にエアコンをつけ始めることで電力需要が急増する
- 同時に、気温が上がると火力・原子力発電所の熱効率が下がり、同じ燃料から取り出せる電力が減る
- さらに、発電所の冷却に使う川や湖の水温まで上がってしまい、冷却が機能しなくなる
フランス南部トゥールーズ近郊の原子力発電所(ゴルフェッシュ2号機)は、まさにこの理由で運転を停止した。冷却に使う川の水温が規定値を超えてしまったのだ。
AIが需要をさらに押し上げている
問題はここだけにとどまらない。
AIブームによってデータセンターが急増しており、その電力消費は近年で急激に増えている。GoogleやMicrosoftは欧州内にも大規模な施設を展開しており、ChatGPTの利用や動画ストリーミング、クラウドストレージといった日常的なデジタル行動が、背後で膨大な電力を消費している。
熱波でエアコンが増え、その電力を賄うために発電所が限界まで稼働し、同じ電力網でAIデータセンターも大量の電力を使う——この連鎖は、従来のグリッドが想定していた負荷をはるかに超えている。
「夏がピークの電力需要」への転換
ヨーロッパの電力需要はもともと冬がピークだった。暖房需要があるためだ。しかし気候変動によって夏の猛暑が常態化しつつあり、その設計思想そのものが時代遅れになりつつある。
エアコンを持っていない大多数のヨーロッパ市民がこの夏にエアコンを買えば、来年以降はさらに電力需要が増える。電力網の増強が追いつかなければ、夏の停電リスクは現実のものになる。
問われる「AIの電力コスト」
データセンターが電力を大量消費する問題は、以前から指摘されてきた。ただそれが抽象的な議論にとどまっていた部分がある。今夏の欧州の状況は、それが実際の電力危機と直結するリアルな問題であることを示している。
AIの恩恵は世界中で享受されている。だが、その電力を一番に削られるのは、グリッドが逼迫した時に節電を求められる一般家庭だ。