ヨーロッパを記録的な熱波が覆うなか、ロンドン西郊の街スラウ(Slough)では、普通ではない理由で気温が跳ね上がっている。世界最大規模のデータセンター群が放出する廃熱が、地域の体感温度を押し上げているのだ。
近隣住民の計測では、施設周辺の気温が約38℃(100°F)に達することもあり、少し離れたエリアより数度高い状態が続いている。熱波そのものに加えて、AIインフラの「発熱」が降りかかってくる。
そのデータセンターは誰のためにある?
スラウのデータセンター群は、Amazon・Google・Microsoftに計算能力を提供している。ChatGPTへのメッセージを送るたびに、YouTubeの動画を再生するたびに、世界のどこかのデータセンターが電力を消費し、熱を生む。その廃熱の一部が、今まさにロンドン郊外の住民の頭上に降り注いでいる。
ケンブリッジ大学のアンドレア・マリノーニ研究員は、スラウの施設を「これまでにない前例のないスケールのもの」と表現した。
「データ熱島効果」という現象
ケンブリッジ大学の研究(未査読)によると、データセンターは周辺の気温を最大16°F(約9℃)も引き上げる可能性があり、直近エリアの平均上昇幅は3.6°F(約2℃)に上るという。
都市の「ヒートアイランド現象」——コンクリートや建物が蓄熱して都市部の気温が上がる現象——と同じ構造だが、原因がデータセンターという点が新しい。研究チームの試算では、世界で3.4億人以上がこの「データ熱島効果」の影響圏内にある。
冷やすほど外が熱くなる
データセンターの矛盾は、冷却にも膨大な電力を使う点にある。サーバーラックを冷やすためのエアコンシステムが動けば、その熱は外部に排出される。施設を冷やせば冷やすほど、周辺の気温は上がるのだ。
スラウの施設はいまだ「第一世代」に相当するデータセンターとされており、現在建設が進む次世代施設はさらに規模が大きい。AIによる処理需要が急増するなかで、廃熱の問題は今後さらに深刻になっていく。
電気代・水圧・騒音、そして今度は「熱」
データセンターへの住民の反発は、スラウに限らず世界中で高まっている。電気料金の値上がり、低水圧、深夜の騒音に続き、今回の「熱害」が新たな争点として加わった格好だ。
AIを使う恩恵は世界中に分散している。しかし、そのインフラが放出する廃熱を直接受け取るのは、施設の隣に住む一般市民だ。クラウドの便利さとデータセンターの熱は、同じ建物から生まれている——この非対称性は、AI時代が深まるほど大きくなる一方だ。