参考文献:
今年6月、英国の気温は36.1℃を記録した。体感温度は39℃。ヨーロッパ全土で数千人が死亡すると予測されている熱波だ。
しかし、熱波が「死亡率」を上げるだけでなく、生き延びた人の脳の機能そのものを損なうという事実は、まだあまり知られていない。
熱波が来ると、精神科の入院が増える
データははっきりしている。
熱波が発生すると、精神疾患による入院件数が9.7%増加する。これはランダムな変動ではなく、複数の研究で繰り返し確認されている傾向だ。
特に深刻なのは統合失調症の患者だ。2021年にカナダを襲った記録的な熱波では、統合失調症を持つ人の死亡率が一般と比べて3倍高かったことが明らかになっている。多くの向精神薬が体温調節機能を妨げるため、猛暑に対して著しく脆弱になるのだ。
ハートフォード・ヘルスケアの熱脳ラボ所長、ジョシュア・ウォーツェル氏はこう言う。「私たちが把握している以上に、熱波は精神医学的な緊急事態をもたらしている」
若者の自殺率と気温の関係
認知心理学者のキャサリン・トンプソン氏(リバプール・ホープ大学)が示したデータはさらに衝撃的だ。
気温が1℃上がるたびに、15〜24歳の若者の自殺率が約3%増加する。25歳以上では約1.4%増だが、若年層への影響は倍以上だ。
なぜ若い世代が特に影響を受けるのか、完全なメカニズムはまだ解明されていない。ただ、脳内のセロトニンなど神経伝達物質のバランスが乱れること、脳細胞への酸素供給が減ること、そして脳内ネットワーク同士の連絡が変化することが、研究者たちによって少しずつ確認されてきている。
今後生まれた子は「7倍の熱波」を経験する
オックスフォード大学の気候変動と精神衛生研究者、エマ・ローレンス氏は長期的な視点から警告する。
2020年以降に生まれた子どもたちは、祖父母の世代と比べて約7倍の頻度で熱波を経験すると予測されている。これは将来の精神疾患リスクや認知機能低下のリスクが、世代をまたいで高まっていく可能性を意味する。
AIデータセンターと「都市の熱」の関係
こうした熱波の深刻化に、AIが一役買っているという指摘がある。
AIを動かすデータセンターは膨大な熱を排出する。ケンブリッジ大学の研究によれば、大規模なデータセンターが集中する地域では、周辺の気温が最大16°F(約8.9℃)も高くなるケースがある。全世界で約3億4,000万人がデータセンターの「熱の影響圏」に住んでいるとも試算されている。
AIが普及すればするほど、データセンターは増え、熱も増える。都市部の気温はさらに上がり、精神的な健康を脅かす環境が広がっていく——この連鎖は、まだほとんど社会的に議論されていない。
「AIによる恩恵」を享受する前に、その熱が私たちの脳にどんな影響を与えているかを考える時期が来ているのかもしれない。