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韓国が「物理AI」に1兆ドルをぶち込む——でも現実世界はまだロボットを受け入れる準備ができていない

2026.06.30 配信
韓国が「物理AI」に1兆ドルをぶち込む——でも現実世界はまだロボットを受け入れる準備ができていない

韓国が6月29日、AI関連に総額1兆ドル(日本円で約150兆円)を投じると発表した。李在明大統領がテレビ演説で「AIの中核技術をどの国よりも早く確保しなければならない」と宣言した。

半導体の工場を増やし、AIデータセンターを地方にどんどん建て、人型ロボットを大量生産する。国を挙げてのAI全振りだ。

ところがちょうど同じ週、シンガポールで開かれたAIイベント「SuperAI」に集まったロボットの専門家たちは、まるで反対のことを言っていた。ロボットの性能は十分上がった。でも「世の中のほう」が、まだ全然追いついていない、と。

150兆円で何をしようとしているのか

150兆円と言われても想像しにくいので、中身を3つに分けてみる。

① 半導体工場の大増設(約88兆円)

サムスンとSKハイニックスが韓国南西部にチップ工場を新設する。AIの学習には大量のメモリチップが要る。今はAI企業が買い占めているせいで、MacやゲームPCの値段まで上がっている。5年でメモリの生産量を倍にし、この品薄を解消する狙いだ。

② AIデータセンターの地方大量建設(約54兆円)

SKグループ、GSグループ、Naverが地方にまとめてデータセンターを建てる。ただし当然、電気と水が膨大にいる。韓国のエネルギー省は新たに8ギガワット分の電力を確保すると言っているが、韓国は天然ガスへの依存度が高く、ホルムズ海峡の情勢次第で供給が揺らぐリスクを抱えている。

③ 人型ロボットの量産(約9兆円)

現代自動車がロボット工場を建設し、あのBoston Dynamicsの人型ロボット「Atlas」を年間3万台量産する計画だ。2028年までに10の主要産業でロボットを実用化し、5年で1万人のロボット専門人材も育てるという。

「ロボット来るっていっても、ビルのほうが対応できないんですけど」

さて、韓国が巨額を注ぎ込もうとしている「物理AI」、つまり現実世界で動くロボットや自動運転車のこと。市場規模は2050年までに3000兆〜4500兆円に達するという予測もあり、将来性は申し分ない。

だが、シンガポールのSuperAIに登壇した専門家3人がそろって「まだ早い」と釘を刺していた。

まず、ロボットが事故を起こしたとき、誰が責任を取るのか決まっていない。ビル管理会社がロボット付きの契約を代理店に出し、代理店がサービスを提供する。ロボットが何かやらかしたら、ビルのオーナーが訴えられるのか、代理店か、ロボットのメーカーか。ここがぐちゃぐちゃのままだ。保険の仕組みもない。

次に、そもそも建物が古すぎてロボットと会話できない。築30年のビルのエレベーターは、最新のロボットとデータをやりとりする機能など持っていない。空港みたいに最初からハイテク対応で建てた施設ならロボットを導入できるが、街中のビルは無理だ。

そして、ロボットに覚えさせたデータが国境を越えられない。シンガポールで集めたデータはアメリカでは使えない。中国で集めたものは他の国で使えない。国ごとに一からデータを集め直す必要がある。デジタルのAIなら一度作れば世界中で使えたが、物理の世界ではそう簡単にいかない。

韓国の工場では、もう労働者が反旗を翻している

巨額投資の話を聞いて盛り上がっているのは政府と大企業だけかもしれない。

6月25日、現代自動車の労働組合がストライキの実施を圧倒的多数で承認した。理由はシンプルだ。Atlasロボットが工場に入ってきたら、自分たちの仕事はどうなるのか。利益の分配と雇用の保障を求めて交渉がこじれている。

半導体メーカーの儲けすぎを問題視する声も出ている。政府高官がサムスンやSKハイニックスに「利益の一部を労働者や下請けに回せ」と促し、5月には大統領府から「AIで得た税収を国民に配当しては」という提案まで飛び出した(さすがに後から「個人的な意見です」と火消しに回ったが)。

技術を先に進めたい政府と、仕事を奪われたくない現場。このぶつかり合いは、韓国に限った話ではない。

お金で工場は建つ。でもそれだけじゃ足りない

韓国の1兆ドル計画は、チップを作り、データセンターを建て、ロボットの体を組み立てるところまではカバーしている。お金があれば、モノは作れる。

でもSuperAIの壇上で専門家たちが言っていたのは、もっと地味で面倒な話だった。ロボットが何かを壊したとき誰が弁償するのかというルール。築何十年のビルにロボットを入れるための改修。国をまたいでデータを使うための国際的な取り決め。どれも1兆ドルでは買えない。作るのに時間がかかるものばかりだ。

韓国の大統領は「大飛躍」と呼んだ。でも工場の労働者にとって、それは「自分の仕事がロボットに置き換わる話」でもある。巨額の投資がどこに流れ、誰にとっての「飛躍」になるのか。答えはまだ出ていない。

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