アメリカのAI企業Anthropic(アンソロピック)が開発したAIアシスタント「Claude(クロード)」は、中国からの利用を一切認めていない。位置情報の確認、アカウントの突然の停止、あらゆる手段で中国ユーザーを締め出そうとしている。
ところが、その壁はことごとく破られ続けている。
6月の新モデル発表で、中国SNSが沸騰
2026年6月初旬、Anthropicが最新モデル「Fable 5」を公開すると、中国のSNSは使用感を語り合う投稿であふれ返った。本来、中国からはアクセスできないはずのサービスである。にもかかわらず、大勢のユーザーがいち早く試用していた事実は、同社の地理的制限がほとんど機能していないことを如実に示している。
古典的な手段はVPN(仮想プライベートネットワーク:自分の接続元を別の国に見せかける技術)の利用だ。これに外国の電話番号や海外決済手段を組み合わせれば、あたかも中国以外の国にいるかのようにアカウントを作れてしまう。Anthropicは疑わしいアカウントを予告なく凍結する措置をとっているが、それでも追いつかないのが現状である。
「中継ステーション」という新たなビジネスモデル
さらに巧妙な仕組みも登場した。「転送站」(中継ステーション)と呼ばれるサービスがそれだ。
仕組みはこうである。まず仲介業者がAnthropicの提供国でAPI(プログラムからAIを利用するための接続口)のアクセス権を正規に購入する。次に自前のサーバーをその国に設置し、中国国内のユーザーへ利用枠を転売する。いわば「AIの代理購入サービス」のようなものだ。
驚くべきことに、この中継ステーションの価格はAnthropicの正規料金よりも安いケースが多い。法人向けの大口割引を利用しているためである。中国語のウェブサイトやGitHubのページには、数十もの中継ステーションを比較する価格表まで出回っている。2026年5月には暗号資産で知られる富豪ジャスティン・サンが、自ら中継ステーションを開設して話題を呼んだ。
中国の開発者が「国産AI」を選ばない理由
こうしたリスクを冒してまで中国のエンジニアたちがClaudeに殺到するのには、明確な背景がある。オックスフォード大学の銭子嵐(チエン・ズーラン)研究員によれば、中国のソフトウェア開発者の間では、Anthropicの「Claude Code」やOpenAIの「Codex」といったアメリカ製AIツールが圧倒的に支持されているという。分析によると、中国国産のAIモデルはアメリカ製に比べ6〜9か月の技術的遅れがある。
この状況は統計にも表れている。Claudeの利用国ランキングでシンガポールが常に上位に入るのだが、その理由の一つは、中国ユーザーがシンガポール経由でアクセスを偽装しているからだとされる。
「敵国の技術だから使わない」は、むしろアメリカ側の発想
カーネギー国際平和財団のマット・シーハン研究員は、この現象について興味深い指摘をしている。「ライバル国の製品だからといって、それを『汚れたもの』として避けるのは、むしろアメリカ人に特有の傾向だ」。中国側のユーザーにとっては、良い道具があれば国籍は関係ないというわけである。
一方のAnthropicも黙ってはいない。CEOのダリオ・アモデイは中国からのアクセスを「重大な安全保障上の脅威」と繰り返し訴えており、中国のアリババがClaudeの出力を使って自社のAIモデルを訓練していた(いわゆる「蒸留」と呼ばれる手法)と非難している。
ブロックしては破られ、また塞いでは別の穴を開けられる。米中AI戦争の最前線では、技術そのものが「壁」を無意味にし続けている。