アメリカが国家安全保障上の理由で輸出を制限してきたAI技術に、中国がほぼ追いついた——そんな報告が波紋を広げている。
中国のAI企業Zhipu AI(通称Z.ai)が新たに公開した大規模言語モデル「GLM-5.2」が、サイバーセキュリティの分野でAnthropicの高性能モデル「Mythos」に匹敵する性能を見せたという。The Vergeが6月28日に報じた。
「バグを見つける能力」で肩を並べた
GLM-5.2は、文章要約や一般的な質問応答といった汎用的なタスクでは、AnthropicやOpenAIのモデルにまだ及ばない。ただし、ソフトウェアの脆弱性を発見する能力——いわゆるバグハンティングの分野では、米国勢との差が急速に縮まっているとされる。
ここで言う「サイバーセキュリティ能力」とは、プログラムのコードに潜むセキュリティ上の穴を自動で見つけ出す力のことだ。防御に使えば企業のシステムを守れるが、攻撃に転用すればハッキングツールにもなりうる。だからこそ米国政府は、この分野の技術を「国家安全保障上の脅威」と位置づけてきた。
オープンモデルだから、誰でも使える
もうひとつ見逃せないのが、GLM-5.2がオープンウェイトのモデルである点だ。つまり、モデルの重み(パラメータ)が公開されており、一般に入手可能なハードウェアがあれば誰でもダウンロードして動かせる。
Anthropicの「Mythos」やOpenAIの「GPT-5.6」は、アクセスが厳しく制限されている。トランプ政権はこれらのモデルが悪用されることを安全保障上の脅威とみなし、利用制限をかけてきた経緯がある。OpenAIも最近公開したGPT-5.6について、悪用の可能性を理由にアクセスを絞っている。
ところがGLM-5.2は、そうした制限の外にある。ダウンロードすれば手元で自由に動かせるため、悪意あるユーザーが監視なしに使うことも技術的には可能になる。
規制で封じ込める戦略は、もう限界なのか
米国はこれまで、先端AIチップの輸出規制や、高性能モデルへのアクセス制限といった手段で、中国のAI開発を遅らせようとしてきた。しかし中国側は独自の半導体(Huawei製チップなど)を用いた開発を加速させており、今回のGLM-5.2はその成果のひとつといえる。
もちろん「一部のベンチマークで近い数値が出た」ことと「実戦で同等に使える」ことは別の話ではある。だが、規制によって技術格差を維持するという戦略に限界が見え始めていることは確かだろう。
サイバー攻撃に転用可能なAIが、誰でもダウンロードできる形で世に出る。この事実が意味するものを、各国の安全保障当局は重く受け止めているはずだ。