「中国製EVが世界を変える」——そんな見出しが躍っていたのは、ほんの2〜3年前のことだ。BYD、CATL、吉利汽車などの中国メーカーが次々と海外工場の建設計画を発表し、ヨーロッパ、北米、東南アジアへの進出が現実のものになると思われていた。
だが、数字は冷厳だ。
「4000億ドル」の夢と「850億ドル」の現実
調査会社Rhodium Groupの分析によると、過去10年間に発表されたクリーンテック関連の海外直接投資(FDI)の総額は約4000億ドル(約57兆円)にのぼった。しかし実際に実現したのはわずか850億ドル(約12兆円)——宣言額の約2割にとどまる。
米国に限れば、EV関連の投資発表のうち60%がキャンセルされている。
なぜ崩れたのか
同社アナリストはその理由を「複数の要因が重なった」と説明する。
まず、EV市場そのものが想定より成長が遅かった。欧米では「EV疲れ」とも呼ばれる消費者の態度変化があり、充電インフラの未整備や価格の高さが購入を躊躇させた。米国では中国製EVの平均価格が同等の国内製品の約半額だが、関税のせいで実際には競争できない。
次に、貿易政策の激変だ。トランプ政権による関税強化と、それに伴う政策の不確実性が、中国メーカーの事業計画を根本から揺るがした。EUも中国製EVへの追加関税を発動している。
さらに、政策支援の縮小がある。各国でEV補助金が削減・廃止され、需要の見通しが立ちにくくなった。
「作って輸出」のほうが効率的
これらの逆風を受けて、中国メーカーが選んだのは「海外工場の建設」ではなく「中国で作って輸出する」戦略への回帰だ。
BYDもCATLも、ここ数年の実績を見ると国内生産体制への投資を優先しており、完成車や電池を輸出することで海外市場に対応してきた。高度に自動化された中国の製造拠点では、コストを抑えながら大量生産が可能で、関税のハードルを差し引いても競争力が残るケースも多い。
実際に稼働しているのはタイの工場くらいで、ハンガリーとブラジルは遅延が続き、トルコは無期限中断状態にある。地域軸でも、かつて欧州が主要目的地だったのが、今はアフリカとアジアにシフトしている。
「現地生産しなくても勝てる」という現実
この状況が示すのは、グローバル製造業のパワーバランスの変化だ。
かつて「現地雇用を生む現地工場」は、海外市場への参入に不可欠とされていた。だが、製造の自動化が進んだ現在では、現地に工場を建てることよりも、高度に効率化された拠点で作って輸出するほうが、コスト的にも速度的にも有利になる場合がある。
中国がこの戦略を選んだことで、欧米の政治家が期待していた「現地雇用の創出」は起きなかった。貿易摩擦はあるが、市場への影響力は輸出という形で保たれている。
「世界制覇」の夢は崩れたかもしれないが、中国EVの存在感は別の形で着々と広がっている。