アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領が、人間を一切介さずAIのみによって運営・意思決定される「非人間法人(Non-Human Corporations)」を合法化する法案を準備している。
利益を最大化するだけの冷酷なモノリス——法人がしばしばそう比喩されることを考えれば、いっそ人間を排除して純粋なシステムにしてしまおうという発想は、ある意味で合理的と言えるかもしれない。
ミレイ大統領の「三点セット」
Financial Timesへの寄稿のなかで、ミレイ大統領は「AIが人間の脳の制約から我々を解放する」と高らかに宣言している。
しかし、その大仰な修辞のベールを剥がせば、彼が狙っているのは極めて現実的で露骨なビジネスモデルだ。この新法案の柱は大きく3つある。
- AIに法人格を与える(人間株主は参加できるが必須ではない)
- AIに対する一切の規制を行わない
- 法人税率を大幅に引き下げ、競争力のある税環境を提供する
要するに、「AI法人格」「規制ゼロ」「減税」の三点セットである。これは実質的に、米国の巨大テック企業(Big Tech)に対する強烈な営業トークだ。アルゼンチンを「AI版のタックスヘイブン」にしようとしているのである。
資本主義の核にある「人間軽視」
このニュースを取り上げたFuturismの記者は、ミレイ大統領の寄稿文に隠された、ある強烈な皮肉を指摘している。
ミレイ大統領は、目指すべき理想の姿として「1602年設立のオランダ東インド会社」を引き合いに出し、ブエノスアイレスを「AI時代のアムステルダムにしたい」と称賛しているのだ。
オランダ東インド会社といえば、植民地主義的な暴力と奴隷貿易の代名詞とも言える歴史的企業である。それをあえて「AI時代のモデル」として持ち出した点について、同メディアは「資本主義の核にある人間軽視を、とうとう隠す気がなくなった」と鋭く批判している。
「人間不在」の制度化
「人間株主は参加できるが、必須ではない」。
この一文が象徴するように、今や経済活動の中心から「人間」という存在を法的に取り除こうとする動きが、SF小説の中ではなく、現実の国家レベルで議論され始めている。
倫理や人権といった「人間の制約」から解放されたAI法人が、税金も規制もない自由な環境で増殖していく。人間不在の資本主義というディストピアが、南米の地でひっそりと産声を上げようとしているのだ。